just in time

活字中毒の、アラサー女による、私の為の日記。

優しくない嘘

恋愛始めの高校生かのように

何度も密会を繰り返した。


『あなたが来たら体温2度くらい上がる…』


「10分くらいしたら、あと5度上げてあげる」



沢山社内メールをして、

毎日ドキドキさせられて、

少し話せるだけでも1日幸せな気分になれた。


「口内炎めっちゃ痛いんすけど」


『今日薬持ってこようかと思ってたんよ』


「ちょっと舐めてもらってもいいっすか?」



夜になれば電話をして、あなたの声を聴くと

私はなんでもできる気がした。


子どもがおらんかったら全然違うんだけどな、と漏らすあなた。二児の父にはなれない、と。


もし私に子どもがいなければ、たとえ結婚していようと奪いにきてくれたってこと?


あなたの婚約者と別れて、私の元へ来てくれたってこと?


たとえ、嘘でも嬉しかったよ。

終電を見送って

あの日、あなたが、「話しするの、緊張する」と言ったから。私もつい、その気になってしまった。私にだけ、懐かない後輩。

「ヤキモチ妬いてた」って言葉に出してしまった。


終電を見送り、あなたとタクシー乗り場へ向かう。「俺んち、来ます?」と問われ、「手ぇ出さないなら、行ってもいーよ?」と答えた。


出すわけないでしょ、って返事を予測していたら、「それは無理でしょ…」って答え。

そんなこと言われたら家に行けなくなるじゃんって思ったけど、自然とそのまま同じタクシーへ乗ってしまった。彼が住所を伝え、ゆっくりと出発する。少しだけ、会話をしていた。彼がそっと私の左手に、右手を重ねてくる。

酔いと緊張で、思考回路は完全にシャットダウンされていた。あったかくて、細長い指。大きくて、優しく包んでくれる手。どうしたらいいのか、わからない。何を話せばいいのか、手を、動かしてもいいのか。

握り返すことはしなかった。ここまで来ておきながら、いまだに、人妻が誘っていると思われたくなかったから。


家に着き、そっと手を離す。片付けられていない彼のマンションへ入る。ソファへ座って、缶チューハイを受け取る。横に、彼が座る。

しばらくお酒を飲みながら話をしていたけど、気がつくと、キスをされていた。少しだけ強引な、噛みつくようなキス。唇に、舌先にピリっとするような甘い痛みが走る。この絶妙な力加減は一体どこで覚えたのかな。強くて優しいキスで、何人の女の子を泣かせてきたのかな。

背中に回された手で、ギュッと何度も抱き寄せられて、そのままひょいっとお姫様抱っこをされてベッドに運ばれる。


行為の後、慣れた手つきで腕枕をしてくれる。

筋肉質の腕にすごく男を感じる。何年振りかな。こんなにドキドキさせられたのは。こんなに安心させられたのは。

寝ているあなたを確認して、私は始発で家に戻った。

宇多田ヒカルの残り香を聴きながら。

昼顔が咲いている

今頃あなたは婚約者と、どこか素敵なレストランで食事でも取っている頃だろうか。彼女と微笑み、語り合い、ワインを口にしながら将来の話をしているのだろうか。

結婚について、私は口を出せる立場ではない。私は反対できるほど、彼女のことも、あなたのことも知らない。傍らでスヤスヤと眠る娘の頬にそっとキスをして、そんなことを考える。


いつもなら定期的にくる連絡が来ない。

低く、甘く、優しい声を今夜は聞けない。

なんで俺と出会う前に結婚してんだよ、って言ってくれたあなたは、ここに、いない。

結婚なんて、しないと言って。

私に本気になったから、彼女とは別れると言って。

二番目でもいいから、側にいたいと言って。

そして私のところへ、駆けつけてきてほしい。


少し痛いくらいの、強引なキスをして、長く細い指を、私の頬に当てて、溢れる愛しさを堪え切れないほどに抱きしめて欲しい。